勉強によって身に付けなければいけない力
阪大理学部生物学科からのメッセージ
阪大理学部生物学科からのメッセージ (原文「生涯通用する知的基礎体力」)
生涯において、仕事の内容は大きく変化します。例えば、植物の研究をするつもりで入社した農学部出身者が医薬品作りに携わることになったり、銀行に入社した経済学部出身者が製薬会社でマーケティングに携わっていたりしてます。
現在高校生である皆さんが大学や大学院を卒業する頃には、世の中はよりグローバル化していて、仕事の内容もまた会社自身も、生涯にわたってダイナミックに変わっていくということは間違いないと思います。
では、そのような未来に準備するために、大学で行うべき事は何でしょうか?
専門的な内容を大学時代に完全に身につける事は困難です。
なぜなら、専門的な内容は膨大であり、かつそれぞれの分野において日進月歩で進んでいくのですから。一方で、大学でなければ身につけられない事は何でしょうか?
それは、比較的幅広い基礎知識、どんな時代になっても変わらない「原理・原則」、そして「ものごとの考え方」です。例えば、
誰も気づいていない本質的な問題を見出すためには、どうすれば良いか?
また、自分が見つけ出した問題を解決するために、どのように考えて何をすれば良いのか?これらを身につける事が重要であるのは、以下の理由によります。
・大学を卒業してそれぞれの「社会」(大学院も含めて)に入ってしまえば、自分の専門以外の分野の基礎知識を体系だって得る事は難しい。(不可能では無いですが。)
・逆に、基礎的であったとしても体系だった知識があれば、高度な専門知識を理解する事はそんなに困難では無い。これからの社会では、環境問題・高齢化問題・機械と人との共存(ウェラブルやパワーアシストなど)といった社会の様々な分野で、生命現象の理解とその応用が新しい形で要求されてくるでしょう。
私たち理学部生物科学科では、どんなに時代が変わっても通用するような、皆さんの「生命現象を理解するための知的基礎体力」を鍛える事を目指しています。
身に付けなければならない2つの力
私が、この素晴らしいメッセージを読んで、特に大切だと思ったところを見ていきます。
- 基礎基本である「原理・原則」
- 「ものの考え方」
ですね。
基礎基本である「原理・原則」
あえて厳しい言い方をすると、高校生の皆さんは、このメッセージのタイトルである「生涯通用する知的基礎体力」を身につけるために勉強しているのではなく、目の前のテストの点数を取るため(そしてそれは受験を突破するため)に勉強している人が多いと思います。
具体的には、教科書に書かれている「定義」や「言葉の意味」あるいは「公式の成り立ち」(これらが「原理・原則」にあたります)をすっ飛ばして、「問題の解き方」にフォーカスしている人が非常に多い。
そして、多くの「問題の解き方」は大学入試が終わった瞬間、無用なものになります。
しかし、「定義」や「言葉の意味」あるいは「公式の成り立ち」の理解は大学入学後ももちろん必要な知識となります。
すぐ役に立つはすぐ役に立たなくなる
即効性のある「すぐに役立つ知識」というのはたしかに魅力的なのですが(そしてそれらは時には必要)、裏を返すと「すぐに役立たなくなる知識」なのです。
例えば、「この問題は〇〇すればすぐ解けるよ」などの知識です。
こういうようなことを教えてもらった人多いでしょう(特に塾にこういう教え方をする講師は多いですね)
これは裏を返せば、「この問題にしか使えない知識」ということになります。
もちろん目の前のテストを突破するために短期的に必要になりますが、それで満足して終わっては絶対にダメです。
原理・原則の考え方を理解した上で、テスト突破のために一次的に使うというイメージです。
と考えている人いませんか?それは「全くムダな勉強」です。将来必要でなくなる知識を一生懸命集めているだけですね。
解法コレクターになるのはやめましょう。
北斗の拳の種もみじいさん
今述べてきたことは、有名な北斗の拳の「種もみじいさん」の話と同じですね。
解法コレクターは目の前の「種籾」を食べているだけに過ぎません。
「原理・原則」の理解こそが、あなたの脳の畑に種を蒔く行為なのです。
「ものの考え方」を学ぶ
「原理・原則」を理解しようと努めてみると、多くのことが同じような「原理・原則」で考えられていることに気づくでしょう。
それが「ものの考え方」です。
例えば、数学で言えば、数学とは抽象化、つまり「対象を広げること」を一貫して目指しています。
も一般角への拡張ですし
も累乗計算の実数への拡張です。
では、
と、
高校の学習は教養の宝庫
もう一箇所、メッセージの中で私が大切だと思ったところは
- 自分の専門以外の分野の基礎知識を体系だって得る事は難しい。(不可能では無いですが。)
- 逆に、基礎的であったとしても体系だった知識があれば、高度な専門知識を理解する事はそんなに困難では無い。
これは、高校の勉強にも大いに当てはまります。
理系の人にとっては、例えば「古文漢文」や「歴史」を体系立てて学ぶのは人生で最後の機会かもしれません。
よく「古文漢文不要論」が話題になりますが、私は全くそうは思いません。
古文漢文で取り扱われている話は、何百年何千年と時代を経た現在でも通用する考え方のものが多いです。
つまり、私達が生きている高々100年程度の間では使えなくなる可能性はほとんどないからです。
「古文漢文」をテストの点数を取るための細かい文法や単語の暗記(=解法コレクター)で終わらせるのではなく、ぜひ「話の中身」(=何百年通用する「ものの考え方」)に目を向けてください。
絶対に人生の役に立ちますよ。
歴史も同じです。
現在の私達は意識せずとも、過去の積み重ねの上にいきています。
私達がもつ常識は歴史的に作られたものです。つまり「世界の常識」を理解するためには歴史を学ぶのが一番良いです。
これからの時代、国際的に働くのがもはや必須の時代と言えますが、そこで一番役に立つ科目は歴史だと思います。
受験に不要な科目はいらない?
これは高校生からよく聞くワードですが、上記の理由より全く的はずれだということがわかりますね。
むしろ、受験に不要な科目は、大学に入学後学ぶことができない分野なので、高校が最後のチャンスということになります。
しかも、受験に必要がないということは、目先の点数を取る勉強(=使えなくなる知識)をする必要性が低いわけですから、思う存分内容を楽しむことができるわけですよね。
控えめに言って、最高ですね。
効率主義の学習には様々な大学が危機感を抱いている
なぜなら、「最短距離で効率的に」という考え方は、実は学問とはめちゃくちゃ相性が悪いからです。
「最短距離で効率的に」という考え方はあらかじめゴールがわかっている場合にしか使えません。
しかし、大学での研究はゴールまでの道筋などだれも知らないからです(知らないから「研究」するのです)。
このことに危機感を抱いているのは阪大生物学科だけではありません。
阪大は工学部応用化学科でもそのことについてかかれていました。
安易に点数を求めることなく、本質的な学習を【阪大からのメッセージ】
受験勉強と「学問」の違いなぜこの記事を書こうと思ったのかというと、大阪大学工学部応用自然科学科のHPにおもしろいQ&Aを見つけたからです。それを見て 室長大学での学びに切り替われない学生が多くて、大学も困[…]
さらに阪大だけではありません。
東工大からもメッセージがあります。
人間力を身につけるための勉強方法【東工大物理系HPから】
この記事では、東工大の教授が大学1年生に勧めている「勉強の仕方」を紹介します。その内容からもう一歩進めて、高校生のみなさんが今からできる「大学の勉強につながる勉強の仕方」を紹介します。 こんな人いませんか?&nbs[…]
名古屋大学のHPでも警鐘を鳴らしています。
今回取り上げるのは、名古屋大学の大学院数学科(正確には大学院多元数理科学研究科)のHPに書かれていた「学び方」です。大学大学での学び方の対するものですが、高校生の勉強にも同じことが言えます。 室長高校生のうちにこの勉強方[…]
大学が覚える危機感。高校生の学びのあり方について【名大大学案内より】
【Coming soon】
北大の教授もメッセージを書いています。
【名文紹介】高校生に伝えたい「学ぶ心構え」【北大教授からのメッセージ】
この記事では、北海道大学の教授が勧めている「(数学の)勉強の仕方」を紹介します。 その内容から、数学の「勉強の仕方」の学べる書籍の紹介や、なぜ高校数学は難しいのか、について書いていきます。 室長今回は北海道大学の教授のメッ[…]
まとめ
最後に内容をまとめておきます。
- 基礎基本である「原理・原則」
- 「ものの考え方」
そのためには
- テストで点数を取るためだけの「解法コレクター」にならない
- 教科書に書かれている「定義」や「言葉の意味」あるいは「公式の成り立ち」を大切にする
ことが必要です。
そして
人生における「ものの考え方」を学ぶには「古典」と「歴史」は超超重要です。
受験に関係がないからこそ、逆に気楽に楽しく内容を学ぶことができると思います。
これらのことを意識して高校の間に勉強するかどうかで、大学以後の長い長い人生においてとても大きな差ができると言っても過言じゃないと思います。(もしかしたらどこの大学に進学するかよりも大切かも)